電子機器市場は2000年から20年にかけて、パソコンや液晶テレビ、スマートフォンが市場をけん引してきた。しかし、これらの電子機器は個人消費の割合が高く、その成長は普及率の高まりとともに鈍化している。スマホに限れば稼働台数は世界で70億台に達しており1人1台保有する時代になっている。

 21年以降の半導体市場はさらなる成長期に入ったとみている。新型コロナウイルスにより各国はデジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)を加速しており、それに伴うデータセンター投資も増加し始めている。DXやGXは主に政府が投資を行うもので、これまでの個人消費に加え、政府投資による半導体需要の拡大が期待される(図1)。

 データセンターへの投資が増加する背景には、米国の巨大IT企業5社「GAFAM」のビジネスモデル変革がある。これまでの広告収入を中心とした稼ぎ方から、インターネット上の仮想空間「メタバース」にAR(拡張現実)やVR(仮想現実)、MR(複合現実)技術とサービスを組み合わせ、新たな収益源とする流れに変わりつつあるのだ。フェイスブックが社名を「メタ」に変更すると発表したことも、その表れの一つだろう。これを実現していくには相当のコンピューティング能力を備える必要があり、先端ロジック半導体やメモリーの需要が想定以上に伸びていく可能性が高まったと考えている。

微細化が不足要因に

 半導体が不足する背景には、半導体の微細化技術の限界が近づいていることがある。微細化を実現するために、半導体メーカーはより最新の生産設備を整える必要がある。半導体メーカーの設備投資額は、16年ごろまで年600億ドル(約7兆円)前後で推移していたが、17年以降は1000億ドル前後の水準に拡大している。図2を見ると、設備投資が増加しているにもかかわらず、工場の生産能力がほぼ横ばいとなっているのが確認できる。微細化を進めるにはより高額な製造装置が必要なうえ、製造工程が長期化しているので生産能力が拡大しないのだ。例えば28ナノメートルクラスのロジック製品は製造工程が400工程程度、製造期間は2・5カ月程度であるのに対し、7ナノメートルクラスでは製造工程が900工程程度、製造期間は4~5カ月に上る。

 半導体は設備投資が能力増強につながりにくい時代に入っており、これが不足の背景にもなっている。各国の半導体メーカーはレガシー(旧世代)製品の能力増強に動いており、23年以降には不足は解消に向かいそうだが、微細化の難易度が上がっている7ナノメートル以下の製品の不足は簡単に解決できる問題ではなく、不足が完全に解消するには相当時間がかかると考えている。

 新型コロナの蔓延(まんえん)でデータ需要が高まったことや各国政府が推し進めるグリーン投資も半導体市場に影響を及ぼしている。各国のグリーン関連投資の合計は500兆円を超えていることから、年間5兆円規模の半導体需要を創出し、市場を10%押し上げる可能性が出てきた。

 グリーン投資が世界の大きなトレンドになった今、注目を集めるのがあらゆるモノがネットにつながる「IoT」だ。IoTを促進することで自動車やエネルギーの効率的な運用につながり、環境破壊の大きな要因となっている二酸化炭素(CO2)の排出を抑えることにもなる。

 IoTでできることはたくさんある。例えば、交通渋滞を回避する仕組み作りが挙げられる。日本の交通渋滞による経済損失は年間12兆円といわれており、渋滞でCO2の排出は50%増加するとされる。IoTを用いて、自動車が通信を始めれば、渋滞や天候情報などさまざまな情報から効率的なルート案内が可能になる。また自動車分野に限らず、天候や雨量と作物の育成状況をデータ化することができれば、水と肥料の量も半分にすることが可能で、農業などでも活用が期待される。

小型データセンターに期待

 IoTにはデータセンターが欠かせない。データセンターというと、米グーグルなどが投資している大規模データセンターの印象があるが、これから増えるのはエッジデータセンターと呼ばれる小型データセンターだ。情報をやり取りする機器の近くにこのエッジデータセンターを置くことで、データのやり取りをより高速化し、遅延を減らすことができる。特に、遅延が許されない医療や自動運転などで活用が期待されており、このエッジデータセンターへは、NTTなども投資を予定している。

 IoTには電子デバイス機器も欠かせない。電子機器の生産市場は新型コロナの影響で、20年こそマイナス成長だったが、今後は拡大を続け、24年には2兆8000億ドル(約320兆円)を超える水準まで高まりそうだ。内訳をみると、特に産業機器の割合が徐々に高まっていく。