この数年、資本市場で最ももてはやされた寵児は間違いなくAI(人工知能)だろう。中国国務院が2017年に公布した「次世代AI発展計画」では、2030年までに中国を世界トップレベルに押し上げて世界のAIイノベーション中心地とし、AI基幹産業の規模を1兆元(約20兆円)、関連産業の規模を10兆元(約200兆円)に拡大するという目標が示された。
CB Insightsの統計によると、2017年のAI分野に対する投資額は世界で152億ドル(約2兆2000億円)となり、16年から141%増加したほか、約半分の73億ドル(約1兆円)を中国企業が獲得している。また「2021年AI業界発展白書」の統計では、過去9年間にAI分野への投資が2048件あり、投資総額は4800億元(約9兆7000億円)に上ったという。
このうち、中国で「AI四小龍」と呼ばれる「センスタイム(商湯科技)」「メグビー(曠視科技)」「クラウドウォーク(雲従科技)」「イートゥ(依図科技)」4社の資金調達が突出している。統計によると、センスタイムは2015~2021年にかけて12回の資金調達を実施し、合計380億元(約7700億円)を調達、中国で最も資金調達の多いAI企業となった。

しかしここに来て、AI企業の度重なる赤字により資本家の熱意が大きく削がれている。
センスタイムはアジアで最大のAIソフトウエア開発企業であり、画像処理ソフトウエアの中国最大手だが、現在に至るまで黒字を達成できていない。2018~2021年の売上高は18億5300万元(約380億円)、30億2600万元(約610億円)、34億4600万元(約700億円)、47億元(約950億円)と右肩上がりに増えているものの、損失額も同様に拡大を続け、それぞれ34億3300万元(約700億円)、49億6800万元(約1000億円)、121億6000万元(約2500億円)、171億8000万元(約3500億円)となっている。
最新の財務報告書によると、今年上半期の売上高約14億2000万元(約290億円)に対して、研究開発費が18億8000万元(約380億円)に膨らんでおり、純損失は32億1000万元(約650億円)となった。
メグビー、クラウドウォーク、イートゥも同様に「多額の損失・高コスト・高額負債」という問題を抱えている。
AI業界が長らく現状打破できていない理由は2つある。1つは研究開発費がブラックホールのように際限なくかかること、もう1つは実際にビジネス展開できる事業が少ないことだ。
現在、AI活用で最も実用的なのはセキュリティ分野だろう。メディアの統計によると、中国のAI四小龍も監視などのセキュリティ分野に依存して身を立てている。しかし、このビジネスは多くが国家のセキュリティプロジェクトやスマートシティ建設に関わるもので、政府や国有企業を相手に提供するため、基本的に1回の購入で完結し、1件受注するごとに残りのプロジェクト総数は減っていく。たとえ補助金が交付されたとしても巨額の開発費の前には焼け石に水でしかない。
しかもセキュリティ分野では、監視カメラ大手のハイクビジョン(海康威視)など幅を利かせている大企業がすでに存在している。あるリポートによると、世界の監視カメラ市場では2018年にハイクビジョンが世界トップとなるシェア37.94%を獲得、同じく中国のダーファ(大華技術)が17.02%で2位につけた。
メタバースとスマートカー、AI企業の新たな注力分野に
そんな中、AI業界に二筋の光が差している。メタバースとスマートカーだ。
製造業の高度化を目指す中国の産業政策「中国製造2025」では、スマートコネクテッドカーに対して明確な成長目標を打ち出しており、2025年までに自動運転の全体技術および基幹技術の確立と、整ったスマートコネクテッドカーの自主開発システム、生産支援システム、産業クラスターの構築を目指し、2035年までに中国のスマートカー産業を2000億ドル(約28兆8000億円)規模の世界最大市場に育てる目標を掲げた。
AI四小龍もスマートカーに狙いを定め、新たな注力分野に据えている。2022年上半期、センスタイムのスマートカー事業の売上高は71%増加したほか、サービスを利用した顧客数が20社と前年同期から54%増加、顧客1社当たりの売上高も11%増加した。
昨年から始まったメタバースブームについては詳細を語るまでもない。メタバースはセンシング技術やバーチャルシーン、ハードウエア設備など、AI技術を必要とする分野だ。連線Insightの大まかな統計によると、現在センスタイムはメタバース事業でデジタルヒューマンやデジタルクリエイティブ作品、ARナビゲーション、AR巡回検査などのプロジェクトを立ち上げている。またメタバース分野で最も発展性のある中国企業を集めた「2022年胡潤中国メタバース潜在力企業ランキング」で、クラウドウォークが上位50社以内にランクインした。
しかし、これまでAI業界を楽観視してきた投資家の辛抱もほぼ尽きてしまったのだろう。センスタイムの株価は今年6月30日、香港市場の取引開始後に急落し、一時50%以上の大幅安となった。背景には、IPO後に株式売却を制限するロックアップ期間が前日に終了したことがある。これはAI四小龍が効果的な調整を図らないなら、次の株価急落はAI業界全体を巻き込むことになるという警告になっている。

source: 36kr Japan