翁 羽翔 日経クロステック/日経コンピュータ

 TISがデジタル人材の獲得に注力する。報酬面では、2023年4月より基本給を平均6%、最大で17%引き上げることを決めた。若手の人材を確保するため、大卒初任給は22万3000円から12%引き上げ25万円にする。同時期に評価制度も刷新し、従業員の達成結果などを絶対評価に変える。加えてマネジメント職に対しジョブ型人事制度を導入する。待遇や評価制度を改善・導入することで、優秀な人材の獲得や定着を狙う。

 賃上げの重点的対象となるのは全社員の約3分の1に当たる、若手とデジタル技術を使いこなす高度人材の給与だ。最大17%アップするのは主に高度人材になりたての若年層などが対象となり、50~100人程度になるという。これらの引き上げにより2024年3月期の人件費を前年度比で約30億円積み増す。

DXコンサルタント増強に向けた人材獲得が目的

 同社が賃上げを含む新たな人事制度を導入する背景には、顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が挙げられる。同社の事業は従来のシステム開発だけにとどまらず、コンサルティング業務にも広がっている。これはTISインテックグループの2021-23中期経営計画に沿ったもので、同期間を「DX提供価値の向上による構造転換の加速」段階と位置付け、コンサルティング事業の強化を図っている。

 例えば、同社がDXコンサルティングのターゲットの1つと設定する金融分野では、デジタル給与払いなどに関する決済がDXの取り組みだと考えられる。ここにはシステムの導入だけではなく、実際の決済サービス利用までを支援できる人材が求められる。そういったDX案件の需要の増加に伴いDXコンサルティングを強化するには、デジタルに詳しい人材を獲得する必要があるわけだ。

 デジタル人材について、TISの髙見慧人事本部人材戦略部部長は「競争が激化している。(従来の人材獲得は)SIerが競合だったが、顧客と事業をつくり上げていくケースが増え、コンサルティング会社が競合になってきた」と話す。最近はユーザー企業がIT企業に発注することなく自社のシステムを内製化するケースが目立ち、顧客側が優秀な人材を抱え込む動きが活発だ。髙見部長は「顧客の内製化は我々からすると脅威だ」と危機感を募らせる。

 TISの岡本安史社長は2022年11月の決算会見で、人材獲得計画が予定通り進んでいるとしつつ、「まだまだ十分とはいえず、引き続き注力する」と話した。人員を拡充して、事業の拡大を狙う。同社は2024年3月期までにDXコンサルティング事業の売上高60億円を、DXコンサルタントの500人体制を目指す。最終的にはこれを1000人へと増やす予定だ。

TISにおけるDXコンサルティング事業の成長戦略(2024年3月期以降は見込み)
TISにおけるDXコンサルティング事業の成長戦略(2024年3月期以降は見込み)
(出所:TISの資料を基に日経クロステック作成)